オイシックス・ラ・大地の「挑戦」を深ぼる

目指すは究極のセレクトショップ。商売の原点と経営を学べる場『とくし丸』

目指すは究極のセレクトショップ。商売の原点と経営を学べる場『とくし丸』

こんなに「ありがとう」を一日に何度も言われる仕事はあるのだろうか。 移動スーパー『とくし丸』のトラックに同乗し、お客様のご自宅を一軒一軒まわった際に感じたことです。

現在、スーパーマーケットの超大型化や郊外化で、近所のスーパーが撤退し、日常の買い物に不自由している「買い物難民(買い物困難者)」と呼ばれる方が増えています。経産省の統計では、その数は全国に約700万人。

地方だけでなく、いまや都心にも存在する全国の買い物難民を救いたい。その一心で、2012年に設立されたのが『とくし丸』です。

そもそも買い物という行為は、生活の中のお楽しみ。現物を見て、触って、感じて、選ぶ。その楽しさを買い物難民と呼ばれてしまっている方々に届けられないかと考えた結論が、「移動スーパー」という手段でした。

玄関先まで軽トラックで出向き、会話をし、お買い物をしていただく。軽トラックといえども、冷蔵庫付きの専用車ですから、生鮮食品も積み込んだそのアイテム数はなんと400品目以上、商品数は約1,200〜1,500点にもなります。

もちろん、それでも「物足りない」と思うかもしれませんが、そうでもないのです。何故なら、とくし丸スタッフがおばあちゃんたちにお薦めしたい商品ばかりを選りすぐり、荷台に搭載しているからです。いわば、究極の「セレクトショップ」を目指しています。

加えて、とくし丸のスタッフは、「見守り隊」としての役割を果たすことも目指します。週に2回、お客様と顔を合わすため、ちょっとした変化に気づき、病気の早期発見に貢献。各自治体や警察などとも連携し、オレオレ詐欺の防止にも協力してきました。

今回の記事では、オイシックス・ラ・大地のグループ企業であり、成長を続ける『とくし丸』について紹介します。

オイシックス・ラ・大地の出向メンバーが躍進を支える

注目を集めるとくし丸ですが、2016年にオイシックス・ラ・大地(当時、オイシックス)の子会社となりました。「食に関する社会課題をビジネスで解決する」 という両社の想いが重なり、とくし丸の事業をより拡大していくことが、その背景にあります。

(▲)とくし丸のメンバーと、オイシックス・ラ・大地のメンバーの交流会「とくしまナイト」での一枚。とくし丸は徳島に本社があり、名物の「阿波踊り」をみんなで踊りました。

2012年の創業から5年で100台だった全国の移動スーパーの契約台数は、ここ2年で400台を突破。数年以内に1000台越えを目指し、現在、急成長の真っただ中です。

その躍進を支えているのが、オイシックス・ラ・大地のメンバーです。「出向」という形で、とくし丸にジョインし、全国を飛び回っています。

全員が幸せになる「とくし丸」の仕組みとは?

はじめに、とくし丸のビジネスモデルを紹介します。とくし丸の事業を成り立たせるためには、「地域スーパー」と「販売パートナー」の存在が欠かせません。

とくし丸は、買い物難民となっているお客様へ商品を届けたい「地域スーパー」と直接契約を結びます。契約したスーパーには、とくし丸がこれまで培ってきたノウハウを提供し、移動スーパー事業の成功をサポートします。

通常のフランチャイズの仕組みでは、売り上げに応じて何パーセントかが本部に支払われることが多いですが、とくし丸は違います。移動スーパーのトラック1台につき月3万円という「定められた額」を、ロイヤリティとしていただくだけ。移動スーパーの販売で稼いだ売上は地域スーパーと販売パートナーに最大限還元されます。

また、契約した地域スーパーは、自分たちの商品を移動スーパーで販売をする「販売パートナー」となるオーナーを募集します。販売パートナーは、個人事業主として働きますので、スーパーに雇用されるわけではありません。これは、スタッフの人件費や、車両の購入費の負担をスーパーにかけず、初期投資を最小限に抑えるためです。

そして、販売パートナーの一日の売上の17%が、地域スーパーから販売パートナーに支払われます。一日の売上平均が9万円なので、25日稼働すると、40万円〜45万円が毎月払われ、販売パートナーの暮らしを支えます。

加えて、販売パートナーが販売する商品は朝にスーパーから仕入れ、1日の販売が終わった夕方にスーパーに戻すので、在庫リスクはゼロです。

ただ、この3者の協力だけでは充分な粗利を確保することが難しく、苦渋の決断の末、実施に踏み切ったのが「10円ルール」です。スーパーで販売している店頭価格にプラス10円をお客様に負担いただき、そこで生じる利益を販売パートナーと地域スーパーに還元するというものです。

とくし丸に関わる人々が「やればやるほど報われる」ことを追求し、売上があがるほど、利益が最大限還元される仕組みにしています。

おばあちゃんの「コンシェルジュ」であれ

報われる仕組みを組み立てる一方で、とくし丸が大切にしているのは、「儲け」を求めすぎないことです。

売上を上げることは重要ですが、大切なお客様が、買いすぎて、食べきれなくて、賞味期限を切らせて、食品を捨ててしまう。そんなことだけは、絶対にさせないように、決して「売りすぎる」ことだけはしないよう心がけています。

お客様と末永く信頼関係を保つためにも、「売りすぎない」ことは、とても重要なポイントです。3日前に買ったはずなのに、また買おうとする場合、まだ残ってないかをちゃんとチェックし、場合によっては「売り止め」をすることもあります。その行為が、とくし丸を信頼いただく基盤となって、長期的な売上アップに繋がっています。

そして、そんな関係が数ヶ月以上続くと何がおこるか。とくし丸の販売パートナーは、もはや実の子供か孫かと勘違いするくらいの親しい関係になってきます。お客様との間に信頼関係を築くことができれば、その先には食品以外の商品、あるいはサービスの提供も可能になります。最近では、眼鏡の新調や補聴器の修理などのサービスの提供もはじめています。

高齢者の要望に何でも答える。とくし丸の最終目標は、おばあちゃんたちの「コンシェルジュ」です。

わずか14人で、全国の販売パートナーを支える

とくし丸は、2019年6月時点で、113社の地域スーパーと提携し、44都道府県でサービスを展開。月間流通総額は、ついに8億を超えました。

そんな急成長中のとくし丸ですが、国内の移動スーパーとしてトップクラスのシェアを持ちながら、現在(2019年8月時点)、わずか14名という少数精鋭で事業を展開しています。そのうちの半数以上は、オイシックス・ラ・大地からの出向メンバーです。

契約している全国の地域スーパー。また、個人事業主として働く販売パートナーに発生する課題を発見し、指導し、事業として成長に導く。「スーパーバイザー」の役割を担っています。

個々のオペレーションの指導から、事業計画についての指導や、自治体との連携など、業務内容は広範囲に渡っています

少人数体制のため、とくし丸を創業した代表取締役の住友や、執行役員直下で、未経験の課題に対しての問題解決スキルをインプットしながら実践できる環境です。

とくし丸の本社がある徳島と、オイシックス・ラ・大地の本社がある大崎に拠点を構え、全国のスーパーと販売パートナーを支えています。

手を挙げて「とくし丸」に出向した理由

出向というと、会社からの強制的な命令での異動をイメージする人もいるかもしれません。ですが、出向しているオイシックス・ラ・大地のメンバーは、とくし丸の事業に可能性を感じ、その理念に共感し、自ら公募に応募しています。

オイシックス・ラ・大地に新卒入社し、現在とくし丸で活躍をしている坂本真之さんに、とくし丸で働く魅力を聞いてみました。

──   新卒で入社。1年でとくし丸へ出向となったがどんな経緯があったのですか?

はじめは、OisixのEC事業の数字周りを管理するチームに配属になりました。ただ、そこは期間限定の部署だったんです。その先に自分は何をやりたいのかを考えていた時に、とくし丸のメンバーから話を聞き、「行きたい」と手をあげました。

──   とくし丸の何に魅力を感じたのですか?

住友さんという偉大な創業者のすぐ横で仕事ができるという環境に強く惹かれました。実際に行ってみたら思った以上に刺激的で、毎日のように「もっと考えろ!まったく自分事にできていない!」と言われ続けました。

そのおかげで、どんなに小さな作業でも「自分が相手だったらどう思うかな」「目的は何かなのか」ということを常に考えるクセがついたと思います。

──   成長を感じた仕事はありますか?

企画を担当した「レシピ大賞」は、特に自分の成長を感じました。とくし丸でお買い物をしているお客様に自慢のレシピを応募してもらい、大賞を決めるという内容です。

はじめは、住友さんの「面白そうだからこんなのやろうよ」という構想から始まったのですが、企画から運営まですべて任せてもらえて1つのプロジェクトをやり切ったというのは、自分にとって貴重な経験になりました。いま、第二弾を考えていて、さらに今年は新しいコンテストも考えているんです。今年もおばあちゃんたちの嬉しそうな笑顔を見れるように頑張ります

──   やりがいを感じるときは?

とくし丸の存在を必要としてもらえた時ですね。販売パートナーさんとの同行で、お客様のもとに行くとやっぱり感じます。

暑い中、一軒一軒「お買い物できなくて困っていませんか」と聞いて回るんですが、「こういうの待ってたよ」とか「来てくれてありがとう」という言葉をもらえた時は、本当にやりがいを感じますね。その日1日の疲れがぶっ飛びます!

また、地域スーパーの店長さんから「とくし丸は売上に貢献している」と言っていただいたときは、嬉しいですね。

──   とくし丸でこの先成し遂げたい夢、大切にしていきたいことは?

夢は、とくし丸をより拡大させること。そのために自分をもっと成長させる必要があると思っています。

「社会的にいいことをしているのは間違いない」という自信はあるんですけど、現場で働く販売パートナーさんたちの満足度が低くなっていくのは防がなくてはいけないことなんです。どんなに拡大していても、一番肝心な足元がふらついていたらダメだと思っているので。

そこはこれから先も常に意識していきたいと思っていますし、スーパーバイザーとして成長して、彼らを支えられるようになりたいです。

執筆:井手桂司 編集:ORDig編集部

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