ビジネスにおける意思決定のアプローチとして、対照的に語れるのが論理と直感です。論理がデータや数字をもとにした合理性を軸にするのに対し、直感は「美しさ」や「楽しさ」といった主観が意思決定に大きな影響を及ぼします。
これまでの社会では、物質的にもインフラ的にも「不満・不便・不安」が噴出していたため、多くの企業では正しく問題を解決するための論理を優先する傾向にありました。ですが、安全かつ快適に暮らせる社会がほぼ実現した現在、「より豊かな暮らし」へと導く直感による意思決定の重要性が様々な場で語られています。
論理と直感を、どうバランスよく調和させていくか。今回は、この大きなテーマに奮闘しながら、パラレルキャリアで働くメンバーを紹介します。サマンサタバサジャパンリミテッドで非常勤取締役を勤めながら、オイシックス・ラ・大地にてSpecial PlannerとPeople’s Adviserという肩書きで働く世永亜実さんです。
人の心をワクワクさせるアパレルの世界と、毎日の生活に欠かせないライフラインである食の世界を行ったり来たりしながら、両方の世界をどうしたらよくできるか自問自答している世永さん。現状で感じている課題や、これからの展望について話を聞いてみました。
自然体の自分で働けることの新鮮さ
ーー 世永さんは、ミランダ・カーなどの海外セレブを起用した広告をはじめ、長年『サマンサタバサ』の世界観づくりを牽引されてきましたよね。サマンサタバサの役員である世永さんが、オイシックス・ラ・大地に入社し、パラレルキャリアで働くようになった経緯から教えてください。
世永さん:
実は、約17年間、がむしゃらに働いてきたサマンサタバサをすっぱり辞めて、まったく新しいことをはじめようかと思っていたんです。
まだ社員数が十数名の頃のサマンサタバサに入社し、目の前の課題に必死で取り組み、会社の成長とともに走り続けてきました。ですが、40歳を迎えた頃から、これまでの経験を活かして、社会貢献する新しく挑戦をしてみたい気持ちが強くなってきたんです。
そんなタイミングで、たまたまオイシックス・ラ・大地の役員の方々とお会いする機会があったのですが、その時の光景は今でも記憶に残っています。「これからの旬は小松菜。今年の小松菜の味はやばい!」「よし、小松菜。小松菜だな!やったー!」そんな感じで、男性の役員のみなさんが小松菜について熱く語りあっているんですよ(笑)。
世永亜実さん。
オイシックス・ラ・大地 Special Planner/People’s Adviser・サマンサタバサジャパンリミテッド非常勤取締役。大学卒業後、芸能プロダクションのアミューズ勤務を経て、2002年にサマンサタバサジャパンリミテッドに転職。同社のブランディングやマーケティングを統括。2008年に執行役員、2012年に上席執行役員に就任。2007年に長男、2011年に長女を出産。2019年、新しい働き方へ転向し、パラレルキャリアを実現。
世永さん:
私は、保育士になりたかったくらい子どもが好きなんです。だから、子育てに時間を割くのは苦じゃないし、できればもっと時間を使いたいくらいです。家事も料理も好きで、家庭にいる時間が大切なんです。
そんな私にとって、ものすごく家庭的な話をビジネスの場で熱心に語っている姿はとても魅力的に映りました。ここで働くと、主婦としての自分を仕事でも活かせるのではないかと。これまで職場にいる自分と家庭にいる自分は別物と割り切っていたので、そんな発想は全くなかったんですよね。
また、オイシックス・ラ・大地のみなさんが口にしていた「社会問題をビジネスのチカラで解決するのが僕たちの存在意義」という言葉もすっと心に入ってきました。ここでなら、社会貢献しながら、自分らしい働き方ができそうと自然と思うようになりました。
異なる組織に同時に属することで広がる世界
ーー 確かにOisixは働くママのお客様が多いですし、世永さんの主婦としての感覚が仕事にも活きそうですよね。また、働き方としてパラレルキャリアを選ばれた理由は何なんでしょうか?
世永さん:
実は、仕事自体をすっぱり辞めて、一度は主婦に専念しようと思った時期もあったんですよ。先ほどお伝えしたように、私にとって家庭にいる時間は大切ですし、ちょうど息子が小学校卒業間近で、一緒にいられるのは今だけだと思ったので。
サマンサタバサの役員メンバーにその旨を告げると、私の気持ちを理解したうえで、「非常勤でもいいので、サマンサの母として、これからもサマンサタバサに関わり続けてほしい」と言葉をいただきました。私にとってサマンサタバサは我が子のような大切な存在なので、その申し出は純粋に嬉しかったですね。
「オイシックス・ラ・大地で新しいチャレンジをしたいけれど、サマンサタバサとの関係も続けたい」と、オイシックス・ラ・大地の社長であり私の上長でもある宏平さん(高島宏平)に相談すると、「それならパラレルキャリアでやってみては?」と提案してくれました。どちらかを切り捨てるのではなく、挑戦したいなら両方やってみればいいと、背中を押してくれたんです。
今でも、サマンサタバサのメンバーとは毎日のように連絡をとっていますし、必要な時は出社もしています。そういう働き方を理解し、認めてくれるオイシックス・ラ・大地のメンバーには本当に感謝しています。
世永さん:
また、オイシックス・ラ・大地の役員には、パラレルキャリアで働いているメンバーも多いですよね。
私は、この働き方を応援してくれる風土は素晴らしいと思っています。異なる業界や文化の会社に同時に身を置くことで、自分の視野がものすごく広がっている感覚があるんですね。オイシックス・ラ・大地で働くことで気づけなかったサマンサタバサの強みや課題を発見したり、サマンサタバサで得たことをコチラで活かすこともでき、いい循環を感じています。
ひとつの場所にいると、問題の解き方はひとつだと思ってしまいます。でも、実は様々な選択肢がある。パラレルキャリアは新しい働き方として社会にもっと認められていいと思うし、そういう働き方をしたいメンバーが現れた時に応援できる存在でありたいです。
直感を出発点にするか、論理で積み上げるか?
ーー 実際にパラレルキャリアをはじめてみて、戸惑いや新鮮さを感じる部分はありましたか?
世永さん:
正直、毎日が驚きの連続でした。私はOisixで扱っている米国発のヴィーガンミールキット『Purple Carrot(パープルキャロット)』のプロモーションや、Oisixと様々な企業とのコラボ企画などを担当していますが、仕事の進め方がサマンサタバサと全く違ったんです。
サマンサタバサでは、「こんなものがあれば、きっとお客様も喜んでくれる!」という直感から企画がはじまり、それを磨いて自信をもった状態で世に送り出します。一方、Oisixではお客様からフィードバックをいただいた声をベースに企画を考え、細かい改善を繰り返し、品質を積み上げていく思想が根本にあります。
わかりやすく言うと、サマンサタバサでは「直感」がものごとの出発点になっていたのに対し、Oisixは「論理」で価値を積み上げていく文化だと感じました。
世永さん:
Oisixで会議をすると「エビデンス」という言葉が頻繁に登場します。お客様の声やデータなど、その施策を行うべき根拠となる証拠を意味していて、自分たちの仕事がお客様のどんな課題解決に繋がっているかを全員が意識しているんですね。
会社の行動指針のひとつに「ベストを尽くすな、Missionを成し遂げろ」とありますが、Missionが何で、それを成し遂げることがなぜ重要かを問うことから毎回はじめるんです。
オイシックス・ラ・大地はお客さま視点を大切にしている企業と聞いていましたが、ここまで意識づけしていると思っていなかったので驚きましたし、感動しました。徹底的にお客様の課題と向き合う文化が醸成されているからこそ、毎日の食というライフラインを担うサービスとして、多くのお客様に支持されてきたのだと理解しました。
どう冷静と情熱を掛け合わせていくか
ーー 働くなかで、サマンサタバサとのギャップに苦労されたりしませんでしたか?
世永さん:
最初はなかなか馴染めず悩みましたし、そもそも私は論理的にものごとを考えるのが得意なタイプではありません(笑)。これまで自分の直感を大切に仕事をしてきましたし、それが私の得意なスタイルだと思ってもいるので。
でも、オイシックス・ラ・大地は直感を軽視しているわけでもなく、宏平さんを見ていても、論理と直感をバランスよく調和しているように思います。論理を最大限に用いても、はっきりしない問題に対しては、最後は直感による意思決定が必要ですからね。
この会社で働くには論理的思考で考えられるようにならねばと身構た時期もありましたが、必要に合わせて思考を使い分けることが大切だと気づきました。オイシックス・ラ・大地流の問題解決法を学びつつ、私がやってきた直感を軸としたアプローチをうまく活かしていきたいと考えています。
ーー どういう場面で、直感を活かしたアプローチが必要になりそうだと思われますか?
世永さん:
例えば、情緒的価値を提供する際には、「こういうことをすれば、お客様も素敵だと思ってくれるはず」という直感が重要になると思います。お客様の声からヒントを得ることもできますが、お客様の感動を生むためには、エビデンスとして明確になっていない心の声に思いを馳せる必要があるからです。
Oisixは安心安全で美味しい食生活をサポートすることにとどまらず、「Oisixのおかげで、毎日の食卓が楽しくなった」とお客様から言われる存在を目指していますよね。そういう心のワクワクを届けていくには、自分の直感を信じる勇気が求められるし、その熱量をメンバーと共有し盛り上げていく情熱が何より大切です。
とはいえ、情熱だけでは空回りする可能性がありますし、論理を持って施策の精度を高めることも重要です。論理を積み上げていく「冷静さ」と、自分の直感を信じぬく「情熱」。この両方を持っているチームが、これから価値を発揮していくと私は感じます。
Oisixをより愛される存在にしたい
ーー 最後に、今後の展望を聞かせてください。
世永さん:
私には、同じ時代を戦ってきたママファイターの友人が大勢います。年齢を重ねるにつれて、「継続的な社会にするために、私たちができることは何か?」と話すことも増えてきました。
そういった素敵な女性たちから、より愛される存在にOisixをしていきたいです。
実際、私の友人にはOisixの利用者が多く、Oisixのある暮らしを楽しんでいます。こんなに愛されているサービスは世の中的にも珍しいと思いますし、それをもっと輝かせていきたいです。
そのためにも、論理と直感をバランスよく調和させて、広い視野でビジネスを考えられる自分でありたいですね。理想の状態にはまだ程遠いですが(笑)、日々勉強しながら、前進していきたいと思っています。
執筆:井手桂司・編集:ORDig編集部