DE&Iとは、多様性(ダイバーシティ)、公平性(エクイティ)、包括性(インクルージョン)の頭文字からなる略称です。性別や年齢、出身地、価値観などの違いを認め合い、一人ひとりがその能力を最大限に発揮できる状態を目指す考え方として、近年注目されています。
オイシックス・ラ・大地では、「国籍・人種・性別・性自認、性的志向、障がいの有無などによる不当な差別を行わず、多様な価値観を尊重する」という基本思想のもと、2023年にDE&I委員会を立ち上げました。
では、オイシックス・ラ・大地における具体的なDE&Iの取り組みとは、どのようなものなのでしょうか?また、DE&I推進にあたり大切にしている考えとは? DE&I委員会メンバーのひとり、楢山舞花さんに話を聞いてみました。
(▼)こちらのインタビューは動画でご覧いただくこともできます。
全社一体となって、DE&Iを推進する理由
── 昨今、多くの企業でDE&Iへの関心が高まっていますが、オイシックス・ラ・大地では以前からDE&Iの取り組みを続けてきたと聞きました。
楢山さん:
はい。オイシックス・ラ・大地では、2018年の経営統合以前から、それぞれのブランドごとにDE&Iの理念に基づくような取り組みを続けてきました。
楢山さん:
たとえば、『Oisix』では、産休や育休から復職する社員を歓迎する「復職式」を開催するなど、子育てをしながら働く社員を支援する環境づくりを進めてきました。他には、パラスポーツ支援として、車いすラグビーやゴールボールの選手に対し、食支援を通じて競技環境をサポートする活動を継続しています。
『らでぃっしゅぼーや』では、「らでぃっしゅ えがおサポート」と称して、ハンディキャップのあるお客さま、および同居されているご家族の方を対象に、配送料を優遇するサポートを長年続けています。
『大地を守る会』では、在宅で乳幼児や高齢者のケアをしているご家族に向けた「レスパイトケア」として、産地ツアーを定期的に開催しています。生産者さんの畑で収穫体験等をしていただくことで、心身ともにリフレッシュできる機会を提供してきました。
── こうした取り組みを続けてきたオイシックス・ラ・大地が、DE&I委員会を立ち上げた背景とは何だったのでしょうか?
楢山さん:
オイシックス・ラ・大地は、創業当初からオープンな風土があり、性別だけでなく、人種・国籍・年齢といった多様な背景を持つ人々が混じり合い、共に働く企業です。事業の拡大とともに、ますます多様な人材が、さまざまな場所で活躍するようになっています。
障がい者雇用においては、2024年9月末時点で法定雇用率を上回る3.0%を達成。また、当社グループで働くメンバーの国籍も、物流拠点を中心に、2024年3月末時点で22カ国の国籍を有しています。
しかし、当社で働くすべての人の「人格・人権・個性」を尊重し、すべての人が働きがいを感じられる組織を実現するためには、多様性へのさらなる理解が必要です。そうした背景を受け、全社一体となってDE&Iを推進する体制が必要だと考えました。
基本思想である「国籍・人種・性別・性自認や、性的志向・障がいの有無等による不当な差別を行なわず、多様な価値観を尊重する」という考えのもと、個々の持つ力を発揮し、イノベーションが起きる環境づくりを目指す。これが、DE&I委員会のミッションです。
一人ひとりが向き合う、きっかけを創る
── DE&I推進のあり方について、かなりの時間をかけて議論されたと聞きました。最終的に、どのような方向性に至ったのでしょうか?
楢山さん:
私たちが目指しているのは、DE&Iへの理解を会社全体で深めることで、さまざまなメンバーが活躍できる環境づくりはもちろんのこと、DE&Iの視点を各事業に取り入れ、社会に広く必要とされるサービスや商品づくりにつなげることです。
そのため、DE&I委員会では、多様性への理解を深めるための機会を提供し、社員一人ひとりが自分なりの形でDE&Iに向き合える「きっかけ」を作ることを意識しています。
そうした背景もあり、DE&I委員会のメンバーは全員が「ダブルミッション制度」で参加しています。ダブルミッションとは、所属部署の仕事とは別のプロジェクトに、業務時間の最大20%の時間を活用できる制度のことです。HR部門内の専門組織ではなく、あえて全社横断の委員会組織とすることで、ボトムアップ型の推進を目指しています。
── DE&I委員会には「LGBTQ+部会」「障がい者部会」という2つの部会もあります。それぞれの役割や活動について教えてください。
楢山さん:
DE&I委員会は、会社全体としてDE&Iを推進するために指名を受けたメンバーで構成されています。一方、各部会については、活動の趣旨を社内で告知したうえで、自ら手を挙げて参加を希望した社員によって構成されています。
部会メンバーの募集を行った際には、私たちの想像を超える数の社員が参加を希望してくれました。LGBTQ+や障がいといったテーマを、自分ごととして真剣に捉え、積極的に関わろうとしてくれるメンバーが多いことを知り、嬉しい驚きでした。
障がい者部会では、国が定める障がい者雇用率の達成を維持することはもちろん、障がい者雇用の社員が働きやすい環境づくりを進めることを主な目的としています。また、私たちのサービスをご利用いただいているお客さまの中で、障がいのある方やそのご家族を支援する取り組みにも注力していく予定です。
LGBTQ+部会では、全世界で約10人に1人がLGBTQ+の当事者と言われる中、誰もが働きがいをもてる職場づくりを実現することを目的に活動しています。LGBTQ+への理解を深めることを目的とした研修などを行っています。
当事者の気持ちや実態を、体感して知ってもらう
── DE&I委員会の発足から約1年が経ちましたが、これまでの活動を教えてください。
楢山さん:
活動初年度となる今期は、まず社内でのDE&Iへの理解を深めることに重点を置きました。DE&Iは人によってはなじみが薄く、少し難しいテーマでもあります。そのため、最初のステップとして「体感して知ってもらう」ことを目標に掲げ、これまでに全社員参加必須の研修を2回実施しました。
1つ目は、LGBTQ+についての理解を深めることを目的とした研修です。外部からLGBTQ+当事者でもある講師の方をお招きし、当事者の気持ちを知るための研修を実施しました。また、一方的な講義形式ではなく、対話形式を取り入れることで、共感を通じて理解を深めてもらう場となることを目指しました。
研修後のアンケートでは、多くの反応が寄せられました。「普段のコミュニケーションが無意識のうちに相手を傷つけていたかもしれない」「明日からの言動を意識して変えたい」といった声もあり、社員一人ひとりの意識が変わるきっかけとなったと感じています。
さらに、研修での気づきをすぐに行動に移してくれた社員もいました。たとえば、社内でお子さんの出産や記念日をお祝いする際に、これまでは「〜くん」「〜ちゃん」と呼んでいたところを、「〜さん」に統一する動きもありました。
楢山さん:
2つ目の全社研修は、障がい者をテーマにしたものとなります。パラアスリートの方お二人をお招きし、障がいのある方のお買い物や調理における実態を知り、誰もがお買い物や食事を楽しむためのサービスづくりや商品開発のヒントをいただきました。
この研修でも「体感して知ってもらう」ことを重視し、実際のシーンを再現していただく機会を設けました。たとえば、手先の自由が利かない方が、Oisixの段ボールが自宅に届いた際、どのように段ボールを開けているのか。目の前で実演いただくことで、言葉だけでは伝わりにくい大変さを、深く理解することができました。
さらに、視覚障がいのある選手には、スマートフォンを使って実際にOisixのECサイトでお買い物をする様子を見せていただきました。端末に搭載されている「音声読み上げ機能」を活用しながら購入する姿に感心する一方で、読み上げ機能に対応していない画像も多いというお声をいただき、今後の改善に向けた貴重な気づきを得ることができました。
誰かの不自由の解決が、みんなのうれしいにつながる
── 今後、DE&Iをさらに推進していくために、会社全体として目指している方向性があれば教えてください。
楢山さん:
これからの展望として、社内にとどまらず、オイシックス・ラ・大地のお客さまにもDE&Iの輪を広げていきたいと考えています。その想いから、「#みんなにうれしいプロジェクト」を立ち上げました。
たとえば、どのような形のご家族やカップルでも、自宅でハレの日を楽しく過ごしていただけるようなミールキットの開発を進めていきます。その第一弾として、料理家の寺井幸也さんに監修いただいたKit Oisix『幸せ溢れるカラフルいなり』を発売しました。
また、日常の中で見過ごされがちな課題にも目を向けていきます。研修の中で、手が不自由な方にとって食パンの袋についているクリップが実は使いづらいことを知りました。この気づきをもとに、食パンの袋のあり方を見直すプロジェクトを進行中です。
誰かの不便を解消することが、実は「みんなのうれしい」につながる。この想いを胸に、プロジェクトを通じて、DE&Iの輪をさらに広げていけたらと考えています。
── 最後に、楢山さんご自身のDE&Iへの想いを聞かせてください。
楢山さん:
DE&I委員会の活動を通じて、障がい者雇用で働いているメンバーと話す機会があったのですが、「こんなに働きやすい会社は他にありません」と言ってもらえたことがとても印象的でした。「僕を受け入れてくれて、『チームには君が必要』とたくさん言ってくれるんです」という言葉が、特に心に残っています。
私自身も子育てをしながら働いており、これまでに復職式に2回参加しました。復職前は不安な気持ちも大きかったのですが、社内の皆さんから「おかえりなさい」「待ってたよ!」と温かい言葉をかけてもらったり、社長から「絶対に無理をしないでほしい」と声をかけてもらえたことで、安心して仕事に復帰することができました。
子育てや介護をしながら働くメンバーがいても、チーム内で協力しながら、みんなで一つのゴールに向かって頑張れる。こうした環境は、会社として大きな強みだと思います。
DE&I委員会の活動を通じて、オイシックス・ラ・大地らしい文化をさらに深く会社全体に根付かせていきたいです。