捨てられるはずだったものに付加価値をつけ、新たな製品に生まれ変わらせるアップサイクル。オイシックス・ラ・大地では、この考えを食の世界に取り入れ、畑や加工現場で未活用だった食材をアップサイクルした商品の開発・販売を行うフードロス解決型ブランド『Upcycle by Oisix』を2021年7月に立ち上げました。
2品から始まったオリジナル商品数は66品となり、これまでに累計約80トンのフードロスの削減を達成(2023年4月時点)。さらには、企業コラボレーションを通じて、自社のサプライチェーンだけでなく、他社や他団体のフードロスの課題解決にも乗り出しています。
今回、『Upcycle by Oisix』の事業推進を担当するグリーン戦略室の東海林園子さん・三輪千晴さん、『Upcycle by Oisix』の広報を担当するコーポレートコミュニケーション部の丸尾幸子さんに、商品開発の裏側やブランドの展望について話を聞いてみました。
INDEX
企業コラボレーションが生まれた背景とは?
── 『Upcycle by Oisix』では、企業コラボレーションによるアップサイクル商品が増えています。その第一弾として、チョーヤ梅酒株式会社との取り組みがありますが、こちらはどういった経緯で企画が始まったのでしょうか?
東海林さん:
発端としては、『Upcycle by Oisix』で梅酒に使用した後の梅をドライフルーツとしてアップサイクルする商品を販売していたことです。2021年9月よりOisixのお客さま向けに販売を開始したところ、好評をいただき、リピート率の高い人気商品となりました。
そして、アップサイクルの価値を社会に広く伝えていきたいと考えた時に、「チョーヤ梅酒さんと取り組みができないか」と思い至りました。チョーヤ梅酒さんは原材料である梅への想いが強く、梅農家の方々と一緒に土づくりから高品質な梅づくりに取り組まれていて、食や生産者と向き合う姿勢が自分たちと通じるものがあると感じたからです。
東海林園子さん。
オイシックス・ラ・大地 執行役員、経営企画本部 グリーン戦略室 室長。短大卒業後、食品会社の商品企画開発を経て、2006年にらでぃっしゅぼーや(当時)にマーチャンダイザーとして入社。らでぃっしゅぼーやのミールキットや、世界各地の料理をご自宅で楽しめる『おうちで旅気分』などの立ち上げを行う。2018年のオイシックス・ラ・大地との経営統合後、2019年よりらでぃっしゅぼーや商品本部長を務め、2021年1月よりグリーンプロジェクトのリーダーに着任。2022年11月より、東北大学特任教授(客員)に就任し、同大学の未来型医療創造卓越大学院プログラムにて活動予定。
東海林さん:
チョーヤ梅酒さんでは「自然の梅果実全部をおいしく食べていただきたい」という想いから、梅酒に漬けた後の梅は製品に入れたり、そのままで販売していますが、製品化できなかった余剰の梅は畑の肥料や家畜の飼料となっていました。
ドライフルーツとしてアップサイクルすることで、梅酒に漬けた後の梅をまるごとおいしく食べていただけるようになり、梅農家の方々の収入増にも繋がります。私たちとしても、チョーヤ梅酒さんの高品質な梅を原材料とすることで、食味をさらに向上させた商品をつくることができます。こうした背景から、共同開発の取り組みがはじまりました。
── 商品開発において、特に意識された点は何ですか?
東海林さん:
チョーヤ梅酒さんの梅は素材の力が強いので、添加物の甘味料や酸味料などは使わずに自然な風味で仕上げています。また、しっとりした食感を残したいという希望もありましたので、セミドライのようなドライフルーツに仕上げてます。
そのままでも、もちろん美味しく召し上がっていただけますが、ヨーグルトにトッピングしたり、ポテトサラダやかぼちゃサラダにちょっと混ぜて、レーズンを使うような感覚で使っていただくとアクセントになり、お料理の幅が広がり楽しくなると思います。
和と洋の組み合わせで、斬新なアップサイクルを実現
── 企業コラボレーションの第二弾として、飲食チェーン『PRONTO(プロント)』との商品開発も行いましたが、こちらはどのような経緯で始まったのでしょうか?
三輪さん:
株式会社プロントコーポレーション(以下プロント)さんから、『Upcycle by Oisix』にお声がけいただいたことが始まりでした。
コーヒーは多くの人が日常的に楽しんでいる飲料ですが、ご家庭ではコーヒーを抽出した後の「コーヒー豆かす(コーヒーグラウンズ)」の多くが生ごみとして処理されています。ですが、コーヒー豆かすには食物繊維が含まれており、「このまま捨てるのはもったいない」という課題意識を強く持たれていました。
プロントさんでは、過去に店内の壁面にコーヒー豆かすを再利用したり、コーヒー豆かすからできた植木鉢『CAFE TSUCHIKO』を開発するなど、これまでもサステナブルな活動に積極的に取り組まれていました。そうした活動の延長線として、コーヒー豆かすをアップサイクルした食品を開発できたらとご相談いただいたんですね。
三輪 千晴さん。
経営企画本部 グリーン戦略室 Upcycle by Oisix ブランドマネージャー。マーケティングを専門とするコンサルティング会社を経て、2020年にオイシックス・ラ・大地にジョイン。サービス進化室で『Kit Oisix』の価格戦略などに携わった後、2021年にUpcycle by Oisixを立ち上げる。昨年は『Oisix × Z世代 未来の食づくりプロジェクト』をスタートさせるなど、世の中へのPR活動のリードも担う。
三輪さん:
実際、プロントさんではチェーン全店から一日に約2トン、年間でおよそ730トンのコーヒー豆かすが排出されるそうなんです。『Upcycle by Oisix』がコーヒー豆かすのアップサイクルに取り組むことで、外食産業・家庭ごみ両方のフードロス削減に貢献できるのではないかと考えました。
ただ、コーヒー味のクッキーやケーキなどの洋菓子は市場に既に多くあるため、単にコーヒー豆かすを使ったお菓子を作っても商品としての驚きは届けられません。また、溶け切らずに食べられるものにしないと、口の中にかすが残ってしまい違和感を生んでしまいます。
その結果、日本の伝統的なお菓子である「あられ」としてアップサイクルすることに決めました。商品化に関しては、アップサイクルの取り組みに賛同し、難しい商品開発に協力してくれた米菓専門工場の株式会社ありがとうとの出会いも大きかったです。あられとコーヒーという和と洋の組み合わせで、新鮮な驚きを届けられる商品になったと思います。
他社のフードロス解決に取り組む意義
── 企業コラボレーションの取り組みは、テレビ東京系列『日経スペシャル ガイアの夜明け』にも取り上げられたりと、メディアからの注目も高いように感じます。
丸尾さん:
そうですね。サステナブルな社会の実現が求められる中、フードロス削減への取り組みに対する社会全体の関心はますます高まっているように感じます。
実は、2020年の農林水産省の発表では、国内のフードロスの総量522万トンのうち、事業活動を伴って発生するフードロスの量は275万トンとなっており、半数以上を占めています。その内訳は、食品製造業121万トン、外食産業は81万トン、食品小売業60万トン、商品卸売業13万トンとなっています。
食品製造業であるチョーヤ梅酒さん。外食産業であるプロントさん。自社だけでなく、食に関連する各事業のフードロス削減の課題に取り組むことで、食のアップサイクルにはまだまだ多くの可能性があることをお伝えしていきたい。そうした想いで、『Upcycle by Oisix』の 企業コラボレーションの広報活動をしています。
丸尾 幸子さん。
コーポレートコミュニケーション部 広報室。広告制作会社、CM制作会社や検索サイト、育児コミュニティサイト、オレンジページのWeb編集を経て、2004年ユーザーとして利用していたオイシックス(当時)に初のママ社員として入社。Oisixの売場、経営企画部、お客さま向けオウンドメディアの編集長などを経て、現在は広報を担当。ダブルミッションとして、社内の社会貢献プロジェクト『TABLE FOR TWO』のリーダーも務める。
── 『Upcycle by Oisix』の広報活動において、特に意識されていることは何ですか?
丸尾さん:
色々とありますが、ひとつは商品開発の背景を丁寧に伝えることです。どういった食材や部位が廃棄されているのかって、業界の外にいるとあまりわからないですよね。フードロスが生まれる現場や、ロスになってしまう背景をしっかりと伝えた上で、アップサイクルによって何を解決したいかを共有することを意識しています。
そのうえで、実物のアップサイクル商品を召し上がっていただくことを大切にしています。フードロス削減に繋がるといっても、おいしさや新鮮さが不十分では継続的な購入に繋がらず、サステナブルな取り組みとして成立しません。実際に召し上がっていただく体験を通じて、アップサイクルの価値を多くの人に伝えていきたいと考えています。
そういう意味では、リアルイベントの企画は積極的に実施するようにしていますね。例えば、2022年4月に有楽町マルイで『Upcycle by Oisix』の商品を手軽に体験できる期間限定のコンセプトショップ『アップサイクルマーケット』が開催されましたが、その際にメディア向けの内覧会も実施させてもらいました。
また、チョーヤ梅酒さんとの取り組みにおいては、チョーヤ梅酒さんが銀座に『The CHOYA 銀座BAR』という素敵なお店をお持ちでしたので、発売を記念したリアルイベントを提案させていただきました。『梅酒から生まれたしっとりドライフルーツ』を使用した期間限定の特別メニューを共同開発させていただくなど、両社の想いをしっかりと伝えられる場になったと思います。
食への探究心によって、いいアイデアが生まれる
── この約2年間で、『Upcycle by Oisix』のオリジナル商品の数は66品となりました。商品開発において大切にしていることを改めて聞かせてもらえますか?
東海林さん:
三輪さんと丸尾さんの話の中にも登場しましたが、「おいしくて驚きのある食体験を届ける」ということは常に意識しています。
これまで捨てられていた食材や部位に興味をもっていただくにあたって、「野菜のこの部分ってどんな味なの?」「捨てられる食材だけど、なんだかおいしそう!」と、お客さまの好奇心をくすぐるようなアイデアが求められると思うんですね。そのため、チームで話し合う際にも、「この商品を10人以上に自慢したくなるか?」という視点を大事にしています。
また、アップサイクルする食材を扱うにあたり、従来ならマイナスと思われてた部分をプラスに転じる逆転の発想をすることを大切にしています。
例えば、チョーヤ梅酒さんの梅の場合は、梅酒に漬けた後の梅なので、どうしても梅の実側に食味が残りにくくなっています。そこから逆転の転換をし、梅酒に漬けたからこそ出るしっとりした食感や旨み。そして、熟成により梅の酸味は減っていきますので、そういった個性を活かしてドライフルーツに加工していきました。
── マイナスをプラスに転じる逆転の発想は、どうやって生まれるのですか?
東海林さん:
ひとえに食への探究心だと思います。廃棄されているものを自宅に持ち帰っては、色々と調理実験を繰り返し、「かぼちゃの種を焼いてみたら美味しかった」「枝豆のさやはこうやったら食べれた」みたいなことをチーム内で報告しあっているんですね。純粋に、食べ物が好きなんだと思います。
やはり、私たち自身が「おいしくて驚きのあるものに出会いたい」「生産者の方々が誇りをもって使った食材を、丸ごとおいしく食べられる方法を知りたい」という気持ちが強いんですよね。だからこそ、楽しみながら仕事をすることができていますし、楽しんでいるからこそ、お客さまを驚かせられるようなアイデアを生み出せるのではないかと思います。
アップサイクルの先駆者として挑戦し続ける
── 最後に、『Upcycle by Oisix』を今後どのように成長させていきたいかを聞かせてもらえますか?
三輪さん:
ブランドを立ち上げた時から考えてることですが、『Upcycle by Oisix』を通じて、アップサイクルという言葉や考え方を広く社会に浸透させたいです。そして、『Upcycle by Oisix』の商品に触れていただくことで、環境や食について考えるキッカケを日常の中に届けられたらと思います。
例えば、「Upcycle by Oisixの商品を食卓に出していたら、『ママ、これSDGsの商品じゃん』と子どもに教えられ、家族で食の問題について話すキッカケが生まれました」みたいな声をお客さまからいただくことが結構あるんですね。自分たちの商品によって、意識や行動が変わるキッカケを生み出せているなんて、作り手として誇らしいですよね。
また、『Upcycle by Oisix』では、これからの未来を担う次世代の子どもたちの声を聞きながら、持続可能な取り組みをより推進していきたいと考えています。
その第一弾として、生徒が自らが部活動として「SDGs部」を立ち上げるなど、アクティブな教育内容と学校環境が特徴の青稜中学校(東京都・品川区)とコラボレーションし、特別授業『Oisix × Z世代 未来の食づくりプロジェクト』を開講しました。このような取り組みも継続的に行っていきたいです。
丸尾さん:
Z世代や小学生ぐらいの子どもたちが、アップサイクルについて理解してくれる姿を見ると、未来は明るいと感じますよね。アップサイクルの可能性を広げる先駆者として、『Upcycle by Oisix』の取り組みや挑戦を世の中に広く伝えていきたいです。
東海林さん:
実際、企業や団体からのお問い合わせの量は増えていて、事業性の面からも、サステナブルな面からも、『Upcycle by Oisix』はすごく注目されていると感じています。「アップサイクルといえば、オイシックス・ラ・大地」と言われるような存在になりたいと考えていましたが、その第一歩は踏み出せたのではないでしょうか。
とはいえ、私たちが目標としている年間約500トンのフードロス削減には、まだまだ道なかばの状態です。様々な方々と手を取り合いながら、『Upcycle by Oisix』らしい挑戦を続けていきます。
執筆:井手桂司・編集:ORDig編集部